「鹿島は国内のゼネコン」という認識は、変わりつつある
建設業界で長く働いている人ほど、ゼネコンに対して「国内の大型物件をやる会社」というイメージを持っているのではないでしょうか。東京駅前の超高層ビル、大型再開発、トンネル、ダム。たしかに、それは間違いではありません。
ただ、2025年度の決算で、鹿島建設は静かに、しかし大きく、その姿を変えました。連結売上は約2兆9,118億円、海外比率38.4%(出典:鹿島建設2025年3月期決算)。3兆円の大台も目前です。この数字は、もはや「日本のゼネコン」というラベルだけでは表現しきれません。
本記事では、約2.9兆円・海外38%の中身を分解し、どこで・何が・誰によって動いているのかを整理します。そのうえで、大林組・大成建設・清水建設・竹中工務店との比較を通じて、「ゼネコン入社=国内勤務」という固定観念が変わりつつあることを、事実ベースでお伝えします。
約2.9兆円のうち、1兆円超が海外売上という事実
まず、数字の輪郭を押さえます。
- 連結売上高:約2兆9,118億円
- 海外売上高:約1兆1,168億円(海外比率38.4%)
- 営業利益:過去最高水準を更新
- 海外子会社数:北米・欧州・東南アジア・中東を中心に多数(出典:axiamark.com/2025年11月時点)
「海外比率38%」と聞いて、ピンとくる方は少ないかもしれません。比較対象として、トヨタ自動車の海外売上比率がおよそ75%、コマツ(建設機械)が約90%であることを考えると、ゼネコンの38%はまだ伸びしろがあるとも言えます。
一方で、製造業ではなく「建設業」でこの比率に到達しているのは、世界的にも珍しいケースです。建設は基本的に「現場のある国でしかできない仕事」だからです。それを1兆円規模で動かしている。これは、過去30年の海外投資の積み重ねがあってこそ可能になっています。
北米:地震大国で培った技術が、米国で評価されている
1. 鹿島USA(カリフォルニア/ハワイ/グアム)
北米における鹿島の主力拠点は、カリフォルニア州ロサンゼルスにあります。地震が多いこの地域で、日本の耐震・免震技術(=建物が地震の揺れを受け流す技術)が評価されてきました。
近年は、ハイテク企業のオフィスビル、データセンター、医療施設などの建設を多く手掛けています。米国の現地法人「Kajima Building & Design Group」を中心に、現地スタッフが中心で運営されており、日本人駐在員はマネジメントや技術監修の立場で関わるケースが増えています。
2. データセンターという急成長市場
北米で鹿島が静かに伸ばしているのが、データセンター施工です。AIの普及で世界的にデータセンター需要が拡大しており、米国だけで2030年までに数千億ドル規模の建設投資が見込まれています。
データセンターは、ただの箱ではありません。電力・冷却・セキュリティの3つを高い水準で設計・施工する必要があり、日本のゼネコンが培ってきた精密施工のノウハウが活きる領域です。
東南アジア:「日系企業の進出」と一緒に育ってきた40年
1. シンガポール・タイ・ベトナム
東南アジアでの鹿島の歴史は古く、1960年代から進出しています。当初は日系メーカーの工場建設が中心でしたが、現在は現地企業の発注も大きな比重を占めるようになっています。
- シンガポール:金融街の高層ビル、地下鉄関連工事
- タイ:自動車メーカーの工場、商業施設
- ベトナム:ハノイ・ホーチミンでのオフィスビル、工業団地
- インドネシア:ジャカルタMRT関連の土木工事
日本のゼネコンが東南アジアで強い理由は、品質に対する信頼です。コスト面では他国のゼネコンに分がある場面もありますが、「期日通りに、約束した品質で完成する」という点で、日本企業は現在も評価されています。
2. 現地で働く日本人施工管理者の役割
東南アジアの現場で日本人がやっているのは、現場の指揮そのものというより、品質マネジメントとリスク管理です。現地の作業員・職長・協力会社をマネジメントしながら、設計図と実際の施工のすり合わせを行います。
20代・30代で海外勤務を経験すると、日本の現場では学べない「異文化下でのマネジメント力」が身につきます。これは、後のキャリアにおいて大きな資産になります。
中東:大型プロジェクトの最前線
中東での鹿島の存在感も、ここ10年で大きく増しています。サウジアラビアの大型プロジェクト、UAEのインフラ整備、カタールのスタジアム関連工事など、日系ゼネコン各社が参画しています。
中東案件の特徴は、規模の大きさと工期の厳しさです。1案件で数千億円規模、しかも国家プロジェクトとして「期日に間に合わせる」プレッシャーがかかります。ここで成果を出した施工管理者は、業界内での評価が高まる傾向にあります。
中東で5年やって帰国した先輩は、「日本の現場が静かに感じるくらい、現場の熱量が違う」と言っていました(業界関係者の声)。
大林・大成・清水・竹中との比較で見える、各社の戦略の違い
大林組
海外比率は約25%前後。北米とオセアニアに強く、特にオーストラリアでの実績が豊富です。ダムや橋梁などの土木分野で実力があり、欧州案件も近年増えています。
大成建設
海外比率は約20%前後。アフリカや中東のインフラ案件で歴史があり、ODA(政府開発援助)絡みの案件で強みを発揮します。技術研究所の規模が大きく、CO2吸収コンクリートなど環境技術にも積極的です。
清水建設
海外比率は約20%前後。東南アジアと北米が中心。原子力関連や宇宙ビジネスなど、長期視点の投資が特徴です。
竹中工務店
海外比率は約10%前後。建築特化型で、品質第一の社風。海外でも「日本品質」を貫くため、案件は厳選される傾向にあります。
こうして並べると、鹿島の38%は際立っていることがわかります。これは、創業以来の「海外で勝負する」という経営方針が、数十年単位で実を結んだ結果と言えます。
「ゼネコン入社=国内勤務」は、変わりつつある
かつて、「ゼネコンに就職すると、地方の現場をぐるぐる回る」というイメージがありました。たしかに、新人時代は国内現場でキャリアを積むのが基本です。ただ、5年・10年と経験を積むと、海外プロジェクトの選択肢が開けてくるケースが増えています。
特に鹿島の場合、約2.9兆円・38%という規模感は、海外勤務が「特別なキャリアパス」ではなく「選択肢の一つ」になってきていることを示しています。社内には海外赴任経験者が多くおり、若手のロールモデルが豊富です。
海外案件で求められる人材像
- 施工管理の基礎ができていること(最低5年程度の国内現場経験)
- 英語は読み書きが中心。会話は現地で鍛えられるケースが多い
- 異文化のチームをまとめる柔軟性
- 図面・契約書を正確に読み解く力
「英語が完璧じゃないとダメ」と思っている方が多いのですが、実際の現場では技術的なコミュニケーション能力のほうが重視される傾向にあります。日本人駐在員のうち、TOEIC700点以上はむしろ少数派、というのが業界の実情として語られています。
20-30代の今、何を考えるべきか
もしあなたが今、地方の現場で施工管理をやっていて、「このままでいいのか」と悩んでいるなら、知っておいてほしいことがあります。
鹿島・大林・大成・清水・竹中といった大手ゼネコンは、中途採用を積極的に行っています。新卒で入らなければチャンスがない、という時代ではありません。中堅・地場ゼネコンや専門工事会社で5〜10年の経験を積んだ施工管理者は、大手ゼネコンの中途市場で評価される人材の一つです。
そして、入社すれば、いずれ海外案件に手を挙げる機会が出てくる可能性もあります。売上の約4割・1兆円超が海外で動いている会社で、自分の現場経験を世界に持っていく。これは決して特別な人だけの選択肢ではありません。
建設業を「誇れる仕事」として捉え直す
約2.9兆円という数字は、建設業がもはや「内向きの斜陽産業」ではないことを物語っています。日本の技術が、地震大国で鍛えられた精密施工が、世界の現場で求められている。これは、誇れる事実です。
古いブラックイメージで建設業を語る時代は、変わりつつあります。もちろん課題は残っていますが、業界全体が変わりつつあるのも事実です。あなたの経験は、想像以上に世界で活きる可能性があります。
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