セメントが世界CO2排出の約8%を占めるという、見過ごされがちな事実
建設業に関わる方なら、薄々感じていることかもしれません。コンクリートは、便利で強くて安いけれど、環境負荷が大きい素材です。
数字で見ると、その課題はより鮮明です。世界のCO2排出量のうち、約8%がセメント産業由来(出典:経済産業省グリーンイノベーション基金事業025_05_00資料)。これは、航空業界(約2%)の4倍にあたります。世界中の飛行機が止まっても、コンクリートが減らなければ気候問題は解決しないと言われる所以です。
このセメント由来CO2の問題に、日本のゼネコン3社が真正面から取り組んでいます。鹿島・大成・大林。それぞれ独自の「CO2を吸収するコンクリート」を開発し、世界での実用化を進めています。本記事では、3社の技術を比較しながら、なぜ日本がこのカテゴリで先行できているのかを解説します。
そもそも、なぜセメントはCO2を出すのか
コンクリートの主原料はセメントです。セメントを作るには、石灰石を1,450度以上の高温で焼く必要があります。このプロセスで、2種類のCO2が発生します。
- 燃料由来:石炭や天然ガスを燃やすことで出るCO2(約4割)
- 原料由来:石灰石(CaCO3)が分解されて出るCO2(約6割)
つまり、燃料を再生可能エネルギーに切り替えても、原料を変えなければCO2の6割は減りません。これが、セメント業界の構造的な難しさです。
では、どうするか。日本3社が選んだのは、「製造工程でCO2を吸収させる」というアプローチでした。
鹿島:CO2-SUICOM(シーオーツー・スイコム)
仕組み
鹿島建設・中国電力・デンカ・ランデスが共同開発した「CO2-SUICOM」は、製造過程でCO2を吸収させるコンクリートです(出典:kajima.co.jp/tech/c_sus_con/technology01/index.html)。
従来のコンクリートは、製造時にCO2を排出します。CO2-SUICOMは、特殊な混和材(γ-C2S=ガンマ・ダイカルシウムシリケート)を加え、コンクリートが固まる過程でCO2を吸い込ませます。
結果として、1立方メートルあたりCO2排出量がマイナス(吸収)になるという、業界では画期的な数字を達成しました。これは「カーボンネガティブコンクリート」と呼ばれます。
実用化の現状
- 2014年:世界で先駆けての実用化
- 2020年代:羽田空港、横浜の建築物などで採用
- 道路境界ブロック、舗装ブロックなど、外構部材で先行採用
課題はコストです。通常のコンクリートに比べて2〜3倍の価格になるため、構造部材への本格採用にはまだ時間がかかる見込みです。
大成:T-eConcrete(ティー・イーコンクリート)
仕組み
大成建設の「T-eConcrete」は、セメントの代わりに高炉スラグ(製鉄所の副産物)を使うアプローチです。製鉄の過程で出る副産物を活用することで、新しくセメントを作る必要がなくなり、結果としてCO2排出を大幅に削減します。
さらに発展型として「T-eConcrete/Carbon-Recycle」があります。これは、廃コンクリートから回収したCO2を再利用するもので、循環型のコンクリートとして注目されています。
実用化の現状
- 大成建設の自社施工物件で標準採用が進む
- 従来比でCO2排出を60〜80%削減
- 2030年までに大幅な普及を目指す
強みは構造体への適用です。鹿島のCO2-SUICOMが外構部材中心なのに対し、T-eConcreteは建物の柱・梁にも使える設計強度を持っています。
大林:クリーンクリートN
仕組み
大林組の「クリーンクリートN」も、高炉スラグやフライアッシュ(=石炭火力発電の副産物)を使う方式です。セメント使用量を減らすことで、CO2排出を約60%削減します。
大林組の特徴は、標準化と量産に注力していることです。特殊な原料を使うのではなく、既存の副産物を活用するため、サプライチェーンを大きく変えずに普及させやすい点が強みです。
実用化の現状
- 大林組の本社ビル(東京)で構造体採用
- 大型物流施設、データセンターなどで採用拡大
- 2050年までにカーボンニュートラル達成を目指す
3社比較で見える、各社の戦略
鹿島:技術の尖り
CO2-SUICOMは「カーボンネガティブ」という、世界でも限られた領域に到達しています。コストは高いものの、技術的なブランド価値は大きいと評価されます。
大成:構造体への展開
T-eConcreteは、構造部材として使える強度・耐久性を確保しています。「いずれビルの柱もこれで作れる」という現実的な道筋を持っています。
大林:量産と標準化
クリーンクリートNは、コストと普及のバランスを重視。すぐに使える現実解として、業界全体への波及効果が期待されます。
3社のアプローチは異なりますが、共通しているのは「日本のゼネコンが自社で技術開発している」という点です。海外では、コンクリート技術はセメントメーカーや材料メーカーが主導することが多いのですが、日本では建設会社自身が技術研究所を持ち、長年にわたって投資を続けてきました。
2,784万トン削減のスケール感
経済産業省の試算によれば、これら次世代コンクリートが本格普及すれば、日本国内だけで年間2,784万トンのCO2削減が見込まれています(出典:経済産業省グリーンイノベーション基金事業)。
これは、おおよそ以下のスケールに相当します。
- 乗用車約600万台分の年間CO2排出量
- 東京ドーム140万杯分のCO2
- 森林換算で200万ヘクタール分の吸収量
建設業が、社会全体のカーボンニュートラルに対して、これだけのインパクトを出せる業界だということを、もっと多くの人に知ってほしい数字です。
世界での評価:日本3社は、なぜ先行できているのか
環境系コンクリート技術では、欧州(特にスイスやスウェーデン)にも有力企業があります。米国にもCarbonCureなどのスタートアップがあります。それでも、「自社で開発・施工・実装まで一貫して回せる」体制を持つのは、日本のゼネコン3社が世界的にも稀です。
理由は3つあります。
1. 技術研究所への長期投資
鹿島・大成・大林は、それぞれ数百人規模の技術研究所を保有しています。これは、世界の建設会社と比べても規模の大きい部類に入ります。短期的な利益にならない研究にも、数十年単位で投資できる体力があります。
2. 大型自社案件でのテスト
新技術は、まず自社の本社ビルや関連物件で試され、データを取られます。「実物件で5年・10年使ってみる」という実証データが蓄積されることで、外部発注先にも提案できるようになります。
3. 産官学連携
経済産業省のグリーンイノベーション基金、国土交通省のi-Construction、大学研究室との共同研究。日本は、官民連携が機能する国の一つです。
20-30代の建設業従事者へ:あなたの仕事は、地球規模の課題に直結している
現場で働いていると、つい目の前の工程・工期・安全のことで頭がいっぱいになります。それは当然のことです。ただ、たまには視点を引いて見てほしいのです。
あなたが今打っているコンクリート、組んでいる鉄筋、それ自体が、世界のCO2問題と地続きにある仕事です。次世代コンクリートは、現場の施工管理者・職人なしには成立しません。新素材を扱うための知識、施工の難しさへの対応、それを乗り越える経験は、これから10年・20年で価値が上がる可能性が高い領域です。
古いコンクリートしか触ってこなかった世代と、CO2吸収コンクリートを扱える世代とでは、20年後にまったく違うキャリアになっていると思います(業界関係者の声)。
「ブラックな業界」というイメージを、技術で更新する
建設業に対するイメージは、いまだに「きつい・きたない・きけん」の3Kで語られがちです。たしかに、現場の課題はゼロではありません。ただ、その一方で、世界最先端の環境技術が日本のゼネコンから生まれているという事実は、もっと知られていいはずです。
CO2を吸うコンクリート。これは、SF映画の話ではなく、すでに日本の現場で打たれている現実の素材です。建設業を「誇れる仕事」として語るための、確かな材料の一つです。
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