1200年、地震で倒れていない塔があります。五重塔の「心柱」と、スカイツリーの意外な関係

建設業の歴史と未来

修学旅行で寺に行ったとき、正直なところ塔をじっくり見た記憶はない、という人は多いと思います。けれどあの木の塔、けっこうとんでもないものです。釘をほとんど使わず、1000年以上、地震で倒れていない。

そして、その構造が2012年にできた高さ634メートルのタワーに使われています。

国の解説文に、はっきり書いてあります

京都の東寺にある五重塔について、国土交通省が運営している観光資源の解説文データベースには、こう書かれています。

高さ55メートル弱の東寺のこの塔は、伝統的な木造建築の中では日本で最も高い建物である。この塔の高さにより、落雷を受けやすくはなっているものの、地震にはとても強い構造になっている。1200年以上にわたって、東寺の五重塔は地震で倒れたことはない。

1200年以上、地震で倒れていない。木でできた、高さ55メートル弱の建物がです。

なお「すべての五重塔が地震で倒れたことがない」という言い方は、公的な資料で確かめられた範囲を超えます。この記事では、公式に書かれている東寺の例に限って話を進めます。

仕掛けは「積み木」と「1本の柱」

同じ解説文には、構造の説明もあります。

まず「心柱(しんばしら)」という言葉が出てきます。塔の中心を、下から上まで1本で貫いている柱のことです。

塔は継ぎ合わされた3本の木の幹から成る心柱を中心に建てられている

塔の各フロアは独立して設計されており、それらが積み重なった構造になっている。建築に使用されている木材は、釘ではなく、精巧な継ぎ目でお互いに接続されている

塔の各セクションは心柱とはバラバラに動き、そのことが継ぎ目同士の間で振動を吸収し、逃がす役目を果たす

ポイントは最後の一文です。各階が心柱とバラバラに動く。がっちり固めて揺れに耐えるのではなく、ずれることで揺れを逃がしている、という考え方です。

積み木を高く積んだとき、全部を接着剤で固めるより、少しずつずれるほうが崩れにくいことがあります。乱暴な言い方ですが、発想としては近いところにあります。

いちばん古い塔は、何年前のものか

「五重塔といえば法隆寺」という人も多いと思います。こちらも見ておきます。

文化庁の国指定文化財等データベースには、法隆寺五重塔についてこう書かれています。

五重塔は安定した美しい外観をもつ最古の木造塔で、金堂にひきつづいて七世紀末に建立されたものと思われる

つまり、建てられたのは7世紀の終わりごろ「と思われる」。確定した年があるわけではありません。だいたい1300年ほど前、という理解が正確です。法隆寺の公式サイトでも「日本最古の塔」と書かれています。

ちなみに奈良文化財研究所の年輪年代測定では、法隆寺五重塔の心柱に使われた木材の伐採年が西暦594年と報告されています。木が切られてから、いまで1400年以上。ただしこれは「木材が切られた年」であって「塔が建った年」ではありません。ネット上で年数の食い違いが起きるのは、たいていこの2つが混ざっているからです。

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ただし、台風では壊れています

「倒れない塔」という言い方は、少し都合がよすぎます。実際、被害を受けた例があります。

国土交通省の同じデータベースにある奈良・室生寺の五重塔の解説には、1998年の台風で大きな木が塔に倒れかかり、深刻な損傷を受けたこと、2年をかけて修復されたことが記されています。この塔は高さ16.1メートルで、屋外にある五重塔としては日本で最も小さく、法隆寺のものに次いで2番目に古いとされています。

地震には強い。でも、上から大木が倒れてくれば壊れる。当たり前といえば当たり前ですが、「昔の技術はすごい」で終わらせないためには、この事実も一緒に覚えておきたいところです。

そして、高さ634メートルのタワーへ

東京スカイツリーの公式サイトには、構造設計についてこう書かれています。

中央部に設けた鉄筋コンクリート造の円筒(=心柱)と外周部の鉄骨造の塔体を構造的に分離し、中央部の心柱上部を「重り」として機能させた、新しい制振システム

そして、この仕組みの名前の由来についても明記されています。

五重塔は日本の伝統的な塔であり、これまでに地震による倒壊例がなく、その秘密は、同じく建物中央の柱=心柱にあると推察されています

だから「心柱制振(しんばしらせいしん)」と名付けられた、と公式の解説にあります。

数字も出ています。構造設計のページでは「大地震時に40%程度の応答せん断力を低減することができます」。別の解説ページでは、心柱と塔体で揺れの周期が違うことで揺れを打ち消し、「最大50%減らすことができます」と説明されています。この2つは指標が違う数字なので、混ぜて読まないほうがいいです。

心柱そのものの大きさは、直径8メートル、高さ375メートルの鉄筋コンクリート造の円筒。壁の厚さは高さ100メートルまでが40センチ、そこから375メートルまでが60センチ。木の柱とはまるで別物ですが、「真ん中に1本、別々に動く柱を通す」という発想は同じです。

なお東京スカイツリーは、設計が日建設計、施工が大林組、竣工は2012年2月です(大林組の実績ページより)。高さ約634メートル、天望デッキが350メートル、天望回廊が450メートルという構成も、同社の実績ページに記載されています。

東寺の五重塔が55メートル弱。スカイツリーが634メートル。その差はおよそ11.5倍です。

材料は木から鉄とコンクリートに変わり、つくり方も、必要な人数も、工期もまるで違います。それでも「真ん中に、塔本体とは別々に動く柱を通す」という一点だけが、1200年をまたいで残った。ここが、この話のいちばん面白いところだと思っています。

建設の技術は、ゼロから発明されることばかりではありません。すでにあるものを観察して、なぜ壊れないのかを調べて、新しい材料で組み直す。スカイツリーの公式サイトが「五重塔になぞらえて、『心柱制振』と名付けました」と書いているのは、その手順をそのまま表しています。

この話が、仕事とどうつながるか

超高層のタワーも、五重塔の修復も、実際に形にするのは現場です。図面を実物に変える工程で、工期・品質・安全・原価を管理する役割が施工管理と呼ばれます。

建物をつくる工事について、国土交通省の区分では「建築一式工事」を「総合的な企画、指導、調整のもとに建築物を建設する工事」と定義しています。スカイツリーのような特殊な構造物も、マンションも、区分としてはこの延長線上にあります。

未経験からこの分野に入る人は、いきなり634メートルの現場に立つわけではありません。住宅や店舗、小規模なビルといった現場から始めて、図面の読み方と段取りを覚えていきます。ただ、「いつかこういうものを建てる側にいたい」という動機は、10年続けるための燃料としては、わりと強いほうです。

よくある質問

Q. 昔の職人は、地震のことを計算していたのですか?

そこは分かりません。計算で導いたのか、何度も建て直すうちに残った形なのか、公的な資料で断定しているものは見つけられませんでした。確かなのは、その形が1000年以上残っているということだけです。

Q. こういう構造の知識は、現場の仕事で使いますか?

施工管理の仕事で直接この計算をすることはありませんが、「なぜこの部材がここに要るのか」を理解しているかどうかで、図面の読み方は変わります。構造に興味があるなら、それは向いている素質のひとつです。

1200年前の木の塔と、2012年の電波塔が、同じ考え方でつながっている。建設という仕事の時間の長さは、こういうところに出ます。

現場をつくる側に回ってみたい、という気持ちが少しでもあれば、無料のキャリア相談で話を聞いてみてください。

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