20代・30代でキャリアに迷っているあなたへ。北海道で「日本のダム史に残る工事」が完成したのを知っていますか。60年以上前に造られたダムを、壊さずにそのまま11.9m高くする。「ダム再生」という、地味だけど将来性抜群の仕事の話です。
ダム再生って何?新しくダムを造るのと何が違うの?
結論:いまあるダムに手を加えて、性能をパワーアップさせる事業です。堤体(ダム本体)のかさ上げ、放流設備の増設、貯水池の掘削などの方法があります(出典:国土交通省「ダム再生ビジョン」)。
新しくダムを造ろうとすると、適した場所はすでに少なく、用地の取得や環境への影響など、クリアすべきハードルが山ほどあります。
それなら、いまあるダムを賢く使い倒そう。これがダム再生の発想です。国土交通省は2017年に「ダム再生ビジョン」を策定し、国の方針として推進しています(出典:国土交通省)。
北海道で完成した「日本初」の工事って何?
北海道三笠市の新桂沢ダムです。1957年に完成した桂沢ダムを、同じダム軸のまま11.9mかさ上げする「同軸かさ上げ」を直轄ダムで初めて実施し、2024年3月に完成。同年6月には国土交通大臣も出席して竣工式が行われました(出典:国土交通省北海道開発局 札幌開発建設部、日刊建設工業新聞)。
堤高は63.6mから75.5mへ。たった11.9mのかさ上げで、総貯水容量は約1.6倍に増えました。本体工事を担ったのは鹿島建設を中心とする共同企業体です(出典:北海道開発局、鹿島建設)。
ダムは上にいくほど水をためる面積が広がる形をしています。だから「少し高くするだけで、ためられる水がドンと増える」。これがかさ上げの面白さです。
ほかにはどんなダム再生の事例があるの?
たとえば鹿児島県の鶴田ダムでは、堤体に放流管を増設して、洪水調節に使える容量を増やしました。新たに水没する土地を生まずに、治水能力を高めた事例です(出典:国土交通省「ダム再生事例集」)。
岩手県の山王海ダムでは、既設のアースフィルダム(土を盛って造るダム)を24mかさ上げする工事が2001年に完成。栃木県の五十里ダムでも既存堤体への放流管増設が行われました。大手ゼネコンの鹿島はこれまで37か所のダム再開発を手がけています(出典:鹿島建設「ダム再生と鹿島」)。
稼働中のダムに大口径の穴を開ける削孔技術など、ダム再生ならではの高度な技術も進化を続けています。
なぜいま、ダム再生が注目されているの?
大きな理由は気候変動です。豪雨災害が激しくなるなか、洪水をためる「器」を増やす必要に迫られています。
しかし新規のダム建設は時間もコストも膨大。そこで「既設ダムの能力を引き出す」ダム再生が、現実的で効果の早い選択肢として脚光を浴びているのです。
鶴田ダムの再開発のように、新たな水没地を生じさせずに早期に効果を出せる点も、ダム再生の大きな強みです(出典:国土交通省)。
ダム再生の現場って、何が難しいの?
最大の特徴は「ダムを使いながら工事をする」ことです。治水や利水の機能を止めるわけにはいかないので、水位や放流を管理しながらの施工になります。
既設の堤体と新しいコンクリートを一体化させる技術、稼働中のダムの堤体に放流管用の穴を開ける技術。どれも新設ダムにはない、ダム再生ならではの難しさです。
裏を返せば、ここで経験を積んだ技術者は「新設も再生もできる人材」として、一段上の市場価値を持つことになります。
未経験からダムの仕事に関われるの?
関われます。ダムの現場にも、施工管理の補助という入口があります。写真管理、書類作成、測量や品質試験の補助からスタートし、現場で経験を積みながら土木施工管理技士の資格取得を目指すルートです。
ダム現場は山あいでの長期工事が多く、若手の確保はどの会社も課題です。だからこそ未経験者にも門戸が開かれており、教育体制を整える会社が増えています。
20代でダム再生の現場を経験した人材は、まだ全国でも希少です。「人と違うキャリア」を作りたい人には狙い目の分野です。
ダムの工事は数年から10年単位の長期戦。ひとつの構造物に腰を据えて向き合い、技術を深く積み上げたい人ほど向いています。短期間で現場を転々とするのが合わない人にとって、むしろ働きやすい環境とも言えます。
かさ上げ工事って、具体的にどうやるの?
イメージとしては「古いダムの下流側に、新しいコンクリートを抱き合わせて積み増す」工事です。既設の堤体表面を削って処理し、新しいコンクリートとしっかり一体化させます。
言葉にすると簡単ですが、60年以上前のコンクリートと今のコンクリートを一体の構造物として挙動させるのは、高度な品質管理の世界です。
しかも工事中もダムは現役。水位や放流を管理しながら、コンクリート打設を計画的に進める必要があります。「動いている心臓を手術する」ような繊細さが求められる現場です。
現場の暮らしや働き方はどうなの?
ダムの現場は山あいに多く、現場近くの宿舎や借り上げ住宅で暮らしながら働くスタイルが一般的です。都会の通勤ラッシュとは無縁の環境で、仕事に集中できます。
2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、長期工事の働き方も計画的なものへと変わってきています(出典:厚生労働省)。
数年単位で一つの構造物に向き合い、完成の瞬間をチームで迎える。短いサイクルの仕事にはない達成感が、ダム現場の醍醐味です。
年収はどうなの?
土木系の施工管理は、年収水準が全職種平均より高めです。厚生労働省の職業情報サイトjob tagのデータでは、土木の施工管理の平均年収は603.9万円。国税庁調査の全職種平均(約460万円)を大きく上回ります(出典:厚生労働省「job tag」、CIC日本建設情報センター)。
ダムのような大規模インフラ工事は工期が長く、雇用が安定しやすいのも特徴です。資格を取って監理技術者クラスになれば、年収700万円以上も現実的な目標になります(出典:CIC日本建設情報センター)。
将来性は?ダム再生の仕事は続くの?
続きます。日本には数多くの既設ダムがあり、その多くが完成から数十年を経ています。気候変動への対応が急がれるなか、既設ダムの有効活用は国の長期方針です(出典:国土交通省「ダム再生ビジョン」)。
しかもダムは完成後も、点検・補修・設備更新と仕事が続きます。「一度造って終わり」ではなく「使いながら育てる」時代。ダムに関わる技術者の仕事は、これからが本番です。
よくある質問
Q. ダムの仕事って、田舎暮らしが前提?
A. 工事期間中は現場近くで暮らすのが基本ですが、それは数年単位のプロジェクト期間の話です。現場を終えるごとに次の任地を選んでいくのがダム技術者のスタイル。むしろ「全国の名所を現場として渡り歩ける」と捉える人もいます。
Q. 新しいダムを造らないなら、仕事は先細りでは?
A. 逆です。新設が減るからこそ、既設ダムの再生・維持管理に仕事の重心が移っています。日本中のダムが対象になるため、仕事の総量はむしろ底堅い分野です。
Q. 水力発電との関係はあるの?
A. あります。ダムの能力向上は、再生可能エネルギーである水力発電の有効活用にもつながります。脱炭素の流れは、ダムに関わる技術者にとって追い風です。
数字で見るダム再生
- 新桂沢ダム:桂沢ダム(1957年完成)を11.9mかさ上げし、2024年3月に完成。直轄ダム初の同軸かさ上げ。本体施工は鹿島建設の共同企業体
- 堤高:63.6m → 75.5m。総貯水容量は約1.6倍に増加
- 山王海ダム:24mのかさ上げを2001年に完成
- 鹿島のダム再開発実績:全国37か所
- 国の方針:「ダム再生ビジョン」を2017年に策定
(出典:国土交通省北海道開発局、鹿島建設、国土交通省)
まとめ:60歳のダムを生まれ変わらせる仕事
新桂沢ダムは、60年以上前の堤体の上に新しいコンクリートを重ねて生まれ変わりました。先人の仕事を受け継ぎ、次の世代へつなぐ。ダム再生は、そんな世代を超えたリレーのアンカーを任される仕事です。
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